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エポキシ樹脂の収縮率、応力測定技術

携帯電話やノートパソコンなどの情報端末機器に用いる半導体製品には多数の半導体パッケージが搭載されている。

これらの半導体パッケージにおいて、熱硬化樹脂であるエポキシ樹脂を用いICチップを封止しICチップとプリント基板の間に充填、硬化するなど電子部品の強度信頼性確保に重要な役目をしている。

 

エポキシ樹脂は、一般に粘性流体から硬化する過程において化学反応による架橋密度や体積収縮などの変化を伴い、硬化後には材料内部残留応力や残留歪が生じる。

これが半導体パッケージの強度低下や反り変形などの不良原因となるため、液体から固体に至る硬化過程で生じる熱応力や反り変形挙動の発生機構の解明が必要不可欠である。

 

またUV硬化と熱硬化を組み合わせたハイブリッド製品等多様な機能的接着剤も多く利用されつつある。

塗膜形成、構造部材固定など、電気、デバイス、自動車、建築関連など使用されていない分野は無いといっても過言ではない。

 

国際的競争力を保ち、高品質の製品を供給し続けるには、歩留まりを抑え、生産効率の安定化を図り製品コストを下げる必要がある。

その一環として、微量塗布された樹脂あるいは薄膜塗布された樹脂の収縮率、収縮応力および経時での変化を正確に把握する必要がある。

 

今まで収縮率の測定においては、粘弾性測定装置、JIS K7112に記載されている水中置換法などで測定する手法により樹脂の収縮前と収縮後の体積変化から収縮率を測定しているが、連続的に微量の高機能樹脂を簡便に実質的に測定する手法は、これまで無かった。

 

Custron(Cure Shrincage and Stress Analysis System)という装置は樹脂の硬化収縮率、応力を連続的に微量で測定できる装置である。

今回は樹脂収縮の基本原理、Custronで測定されたデータの解析からエポキシ樹脂の硬化収縮、応力測定方法について述べる。また2018年度中にはJISに制定される方法であることを付記する。

エポキシ樹脂の硬化収縮モデル

まずエポキシ樹脂硬化のモデル図を下記に記す。

常温の液状状態Aを加熱して硬化温度Bで反応させ、その反応が終結する点をCとする。試料はこの点から放冷されて、D、すなわちこの硬化系のガラス転移温度Tgに達した後、室温Eに達してこのサイクルは完結する。

 

このモデル図図面で硬化反応による収縮はB-C間で起こり、硬化後の冷却による収縮は、C-D-Eで示される。

ただしDはこの系のTgに相当するので、ガラス状領域(<Tg)における収縮はD-E間に相当し、ゴム状領域(>Tg)における収縮は、C-D間で起こる事となる。

 

さらに説明のために、A-E間の収縮を全収縮、B-E間の収縮を最大収縮と呼ぶことにする。通常の熱硬化エポキシ樹脂の収縮率はこのA-E間を測定する事となる。

関西大学、山岡氏らの置換密度測定例ではEtylenediamineの場合、Total shrinkage A-Eが5.1%  Max shrinkage B-Eが10.5%となっている。

 

Tetrametylenediamineでは、Total shrinkage A-Eが4.8% Max shrinkage B-Eが10.1%となっている。

測定装置概要

樹脂硬化収縮率・硬化応力測定装置Custronは、当初UV硬化樹脂の測定をターゲットに開発したものであるが、市場ニーズの多様化に伴い、熱硬化樹脂への応用展開を望む声が次第に高まり、これに対応すべく再三の改良を重ねてきた。

 

現在に至っては、UV硬化樹脂をはじめ、熱硬化樹脂など様々な材料の硬化収縮率・硬化応力にまで対応範囲を拡大し、かつ連続的に測定できる装置として実績を積み上げている。

 

なお、原理・手法は、平成28年1月27日付で特許を取得している。熱硬化樹脂は、80℃~300℃程度まで加熱し硬化させることが多く、熱による筐体の膨張、センサー感度のシフトなど様々な精度管理が必要となるが、数多くの変更、改良を重ね、測定精度に影響を及ぼす因子を1つ1つ取り除くことにより、高性能な熱硬化樹脂の硬化収縮率・硬化応力の測定を可能としたのが現在のCustronである。

 

測定にあたっては、測定材料の樹脂硬化収縮率変位をレーザー照射し、データを取得するが、同時に測定ベースが常に均一温度に保てるシステムになっている。

また、UV光、熱プロファイル(常温~300℃)を自由に変えることができ、その状態における収縮率、硬化応力はもとより、表面温度についてもそれぞれ連続的に測定することができる。

なお、これら温度の上下設定もプログラムで可能である。

 

硬化反応には、大なり小なり発熱を伴い、エポキシ樹脂の反応などではかなりの温度に達することから、被着体にも影響を与える可能性があり、樹脂自体から発する反応熱の測定は重要な要素である。

装置構成

Custronは、制御部、測定部、データPC、チラーから成る。測定部には、材料を加熱制御するステージ、計測用レーザー、ロードセル、放射温度計、UV LED、高圧水銀ランプなどから構成される。なお、基本スペックは下記のとおりである。

  1. 反応前、反応途中、反応後の収縮率、膨張率、応力の連続測定
  2. 樹脂表面温度測定
  3. 測定樹脂量 約1cc
  4. 加熱、UV照射(高圧水銀ランプ、UV LED)
  5. プログラム制御

 

また、この装置の特筆すべき特徴は、温度プロファイルを20パターンまで自由に設定でき、樹脂に影響を与える温度状態の再現ができることである。

実際の生産現場においては、樹脂を硬化させる熱は多種多様の加温条件があり、生産全行程において様々な温度条件が加わり、それが樹脂の膨張、収縮を引き起こし製品の品質に大きな影響を与えるが、この装置はその条件を再現できる。

また、この装置の特筆すべき特徴は、温度プロファイルを20パターンまで自由に設定でき、樹脂に影響を与える温度状態の再現ができることである。

 

実際の生産現場においては、樹脂を硬化させる熱は多種多様の加温条件があり、生産全行程において様々な温度条件が加わり、それが樹脂の膨張、収縮を引き起こし製品の品質に大きな影響を与えるが、この装置はその条件を再現できる。

収縮率計算式

A (t) =(V0V (t))/ V0 × 100(%)

      =  [T0T (t)] / T0  × 100 (%)

ここに、

A(t):任意の硬化条件による,時刻tにおける硬化収縮率(%)

t :硬化開始後の経過時間

V0t = 0における初期体積,

V0  T0 × S

V (t):時刻t における体積,

V (t)  T (t)× S

     S:試料断面積

T0 t = 0における初期膜厚

T (t):任意の硬化条件による,時刻tにおける膜厚

おわりに

樹脂収縮率の連続測定方法は2018年度にJIS化されており、2021年ISOに制定され、国際規格となる。

 

る予定である。新市場創造型標準化制度を利用して検討されたテーマであるが、電子デバイス、EV化などめまぐるしく変化する科学技術の世界で

最先端ではないが、それを支えるものづくりの基本的に押させるべきテーマであると認識する。

 

どういう条件で硬化させれば、一番収縮が小さく済むのか?一番内部応力を小さくする硬化方法はどの条件か?を探るのに必要不可欠な手法であろう。

この方法が広く普及し研究開発のさらなる進歩を期待するものである。

 

 

<参考文献>

(1)山岡一三 “材料”第29巻 第323号 関西大学 (1980)

(2)電子部材用途におけるエポキシ樹脂 CNC出版

 

 

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